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松坂洋三のインダストリアルデザイン論 [デザイン論]

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(写真:大分市内)


 


現代デザインの役割(2019年紀要論文)https://drive.google.com/file/d/1LlR_aP8OVEIPq8_tXtiugkJlf2UhyKHd/view?usp=sharing


デザインの原点 ー「閃きというアイデア」                                          プロダクトデザインは100年の歴史のある職業であり(ペーターベーレンスがドイツAEG社の嘱託で行ったのが初め)その対象は、徐々に広がり当時から行われていた家具やテーブルウエア、住空間のデザインは現代も継続してデザイナーの仕事となっている。さらに戦後、目覚ましく発展した家電品や自動車などは、既に70年以上もプロダクトデザイナーの仕事の対象となっている。その間、陶磁器、ガラス、木材、金属などの素材・加工技術は生き続けデザイナーの造形の対象であったが、戦後目覚ましい発展を遂げたプラスティック材料と製造技術はさらにデザイナーの造形力を発揮する上で大きな機会を与えた。また、情報機器の様に、コミュニケーションのための技術やエンタテイメントのための機器など、従来なかった使い方やユーザーインターフェース・サービスがデザイナーの対象となった。そのように長い間、プロダクトデザインが廃れずに今も尚、職業として行われているのはデザイナーの物の魅力を発見し、アイデアを次から次へと生み続けていく本能・創造性では無いかと考える。日本では始まりから多くのデザイナーがトヨタ、日産、ホンダといったすべての自動車メーカー、パナソニック、ソニーといったすべての電機メーカーに社員として採用され設計部門の一部またはデザイン部門として連携しデザイン業界を牽引した。プロダクトデザインにとってその原点はデザイナーのアイデアが、効果的に付加価値として製品の魅力を向上させる力だ。今回は、その「デザイナーの閃き(ひらめき)というアイデア」がどのように展開されたか事例を元に考察してみたい。


機能×アイデア[事例]


・はえ縄漁業の漁師の仕事への憧れ、10か月の生活空間として飽きの来ない工夫など働く場所としてのカッコよさを求めたデザイン(第一昭福丸 デザインファーム;Nendo佐藤オオキ代表 )


・映像制作者のプロフェッショナル機材という仕事に誇りを持てるような高度な機会という精緻感や多機能をかっこよく見せるデザイン(ソニー業務用カメラ CineAlta VENICE


・ラボ―チェ(声)というフロアタイプのスピーカーでは音のユニットごとの音源の位置を揃える技術を造形に可視化したアイデア(スピーカー SS-A7:松坂)


▢操作性(使い方)×アイデア[事例]


・毎日使ったら後の人のために綺麗にするといった日本の掃除文化・精神性を反映させた綺麗を保てるような和の建築に合う洋式トイレのデザイン提案(2019年卒業制作・堀直輝)


▢意味・物語/サステナビリティ―×アイデア[事例]


・おいしい水の流水造形を可視化したようなペットボトルのデザイン(Tinant:ロスラスグローブ)


・世界で最も歴史のあるブタペストの地下鉄は自動化となったがその原形は最古の地下鉄の1号機にある


▢素材・構造×アイデア[事例]


・透明なアクリルブロックの中に浮かぶピンクの透明なブロックにより美しい浮遊感を可視化させた。(倉俣史朗)


・日本の住宅の窓枠など建材などに使われる古典的な製造方法アルミサッシという合理的、安価な素材をその量産性を生かしつつ加工技術と職人の仕上げ加工技術により全く美しいトロフィーのような聖火トーチによみがえらせた(吉岡徳仁)


https://drive.google.com/file/d/140yaFLvLOKuFJ_JAG5B66Ci_fq9iSO_B/view?usp=sharing


 


あたりまえ                                              日常見慣れた光景を見慣れないものとする発想を「馴質異化(じゅんしついか)」という。この発想法は普段見慣れた光景は当たり前ととらえられているが、当たり前でない光景に見ることである。何となく空を見ていると空には雲が流れており、あたりまえの光景だ。しかし、その流れるスピードから天気予報のインジケーターとして見ることも出来る。同じ空の雲の光景がに発想次第で異なる機能として見ることが出来る。一方、「異質馴化」の方は、なかなか事例を探すことが難しい。ある人が「これまで無関係、無用と思われていたものに注目し、それを役立たせるのが「異質馴化」である」[https://educalingo.com/pt/dic-ja/shinekutekusu]とうまく解説しているのを発見し、凄くしっくりいった。いままでに使われていなかったものに注目し調べた結果、新しい用途を発見するということか。この視点でもう一度、「馴質異化」を開いてみると、先に用途が決まっていて、それを達成するために今までの知識のなかから使えそうなものを再発見するというように説明出来やっと肩の荷が下りる。学生時代(1977年)岡田朋二先生の授業では、クワガタの「つの」の動きから荷物の寸法に合わせて左右から挟む構造の台車を提案したところ周りのみんなに良い例として紹介くださった。でもこれは「馴質異化(じゅんしついか)」であった。しかし、「異質馴化」ともとらえることも出来る。視点の解釈の違いか?いずれにしてもデザインコンセプトのネタとは日常のどこにもアイデアが潜んでいる。この「シネクティクス(ゴードン法)」は当時の美大のデザインではあまりお見掛けしないユニークな創造工学の科目である。ここ(芸文短大)の専攻科の授業でも課している。イギリスのマーク・ニューソン氏のデザインは優しい自然な造形で、本人の人柄が見えるような奥の深いデザインである。確か、アップルデザインの時代を築いたジョナサンアイブ氏が退社し組んで仕事をしている。不要なものは足さないミニマルな思考でありながら温かみのあるデザインだ。そのマーク・ニューソン氏のデザインは日ごろ見慣れた砂時計の砂が落ちるという動詞のデザインを再度見つめ直して、注いだ時にはじける金色のシャンパンの現象を砂時計のデザインの光景とした。これこそ「異質馴化」であろう。日常の関係の無さそうな素材を金色泡の砂時計という機能に結び付けた。マークニューソン氏の目には何気ない普段の映っている光景は当たり前ではないのだ。


美しくあるべき                                          インダストリアルデザインはなぜ美しくなければならないか。インターナショナルなデザイン教育を世界では初めて行ったバウハウス初代校長がバウハウス叢書の最初のページで語った言葉がこれである。                                    「ものはその目的を実現すべきである、つまり、その諸機能を満足させ、丈夫で、安価で、そして「美しく」あるべきだからである」                                          と100年前にドイツで設立されたバウハウスという総合的な美術・建築・デザインを学ぶ公立学校「バウハウス」の叢書7「バウハウス工房の新製品」冒頭バウハウス生産の原則で著者であり校長のワルター・グロピウスが述べている。形態・技術・経済の領域のすべての品物の形態をその「機能と制約」から見出そうとすると書かれている。バウハウスのデザインはインターナショナル様式とも呼ばれているが、機能的、合理的なデザインである。そして、最上位の概念としてデザインの役割が拡大した現代でもデザインは「美しく」なければインダストリアルデザインとは言えない。インダストリアルデザイン=製品デザインはどのようなプロセスや役割を担うにしても最終的には「美しいデザイン」に統合化されなければ製品デザインとは言えないということを忘れないでほしい。


機能のデザイン                                          製品のかたちを決める要因が機能に根差している合理的なデザインは、今日でもプロダクトデザインの主流である。その製品の機能をより合理的な形にすることであり、機能以外の無駄を排したミニマルな造形である。そのようなデザインは、バウハウスの時代に研究されたデザインの役割だ。そのデザインを正しいインダストリアルデザインの方法として理解した日本の工業デザインは、商品設計の提示する制約の中で最大限に良いデザインを実現するためにデザイン提案を行ってきた結果、世界で評価された。しかし、日本の工業デザインはデザイン優先ではなく器用なインハウスデザイナーが多くの制約の中で最大限のデザインを実現してきた点にある。日本の強みは企業の中でエンジニアと密にモノづくりをし、設計とデザインが基本的にはリスペクトしながらバランスのよいコストパフォーマンスに優れた製品デザインにあり、基本的にはデザインの役割をよく理解しているプロジェクトリーダー(PL)は設計のリーダーである。日本の企業の例ではソニーのようなデザインは、他社が真似できないようなハイテク(高度な技術)をベースに、新しい技術をデザインの意味のテーマとして新しいデザイン言語づくりに賭けていた。求められたのは常に尖ったデザインだ。海外でのソニーの評価はそのような日本製の高品質を代表するデザインであった。トリニトロンテレビは液晶に置き換わる前の2000年代中頃まで世界シェアがナンバーワンであった。


アップル社は個人で使うという意味での本当のパーソナルコンピューターの原形といえる一体型を発表したのは1984年のマッキントッシュ128Kだ。スティーブジョブスから信頼されていたフロッグデザイン・ハルトムットエスリンガー氏の時代を経て、復帰したスティーブジョブスが信頼したジョナサンアイブは伸び伸びとした安っぽくないプラスティックの痛快なかたちのiMACでパーソナルコンピュータのデザインを開放した。その後、iMACからiCUBEなど次から次へと最高の樹脂の傑作なデザインを発表し、ISO14001が世の動きになると2000年以降の世界的なエコロジーの流れに則り、再生可能なアルミを主体としたデザインに切り替えた。それ以降は現在のアップルの他社を寄せ付けないミニマルで圧倒的に美しいプロダクトデザインを展開している。美しいプロダクトを実現するために無垢材からの削り出しという一品ものにだけ許される試作品の手法を量産させる魔法は、トップダウンの企業であったから実現した。ジョブスとジョブスの信頼を得ていたジョナサンアイブであったからこそ実現した奇跡であった。アップルは、デザイン優先の会社であった。バウハウスのインターナショナル様式ではない、全くデザイン優先のプロダクトづくりの企業、唯一無二のアップル様式といえよう。今、ジョナサンアイブの去った後、あっ!と言うようなデザインは出ていない。ジョナサンアイブを超えるデザイン、それは、アップルカーか。


現代の造形デザインは、機能的合理的なデザインが数の上では主流であり続けるが、「次のデザイン」がそれらを過去の様式としている。「形態は機能に従う」からハルトムット・エスリンガーは「形態は感情に従う」といった。「次のデザイン」は「形態は意味に従う」デザインだ。「次のデザインとは「意味のデザイン」であることを述べたが、それはバウハウスの流れ汲む機能的なデザインとは異なる。その製品は何であるか意味が造形を決めるデザインである。それには設計の制約を受けないデザインであり、製品デザインの理想を追求したデザインの次元だ。2000年以降そのような「次のデザイン」がプロダクトデザインの指標として様々な製品が出てきたように思う。その代表格がダイソン氏であり、ダイソン氏の扇風機だ。デザイナーであり設計者である以外に究極の美しいデザインは実現できないということかもしれない。車のデザインを追求すると結局設計を自らしなければならないと中村信雄氏は自動車雑誌のインタビューで答えていたがそういうことである。美しいとは何か?プロダクトデザインを追求していくとこの命題に到達する。このデザインは美しいか?その命題こそプロダクトデザインの本質である。そこには製品デザイン美といったようなものがあり、デザイナーが少しでも美しいものを作りたいという執念の結果であり、その製品の「あるべき姿の追求」である。美しい製品デザイン実現にはデザイナーが習得した造形感覚、造形のセオリーといったものが生かされており様々な言葉で表現を試みることができる。


                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       


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